2007年5月9日水曜日

実用化進むバイオエタノール

温室効果ガス削減対策として、トウモロコシなどの植物を原料としたバイオエタノールの利用が本格化している。石油業界は、4月27日から首都圏50カ所のガソリンスタンドでバイオエタノールを混合したガソリンの販売を始めた。また大阪府堺市では、廃木材を原料としたバイオエタノールを生産する工場が今年(2007年)1月から操業を開始している。注目のバイオエタノールをめぐる動きを追った。

 「いらっしゃいませ。本日から当店のレギュラーガソリンはバイオガソリンを使用しております」。給油のため東京都杉並区内のガソリンスタンドを訪れたお客にスタンドのスタッフが元気よく声を掛ける。
販売が始まった「バイオガソリン」は、バイオエタノールを石油ガスと混合した液体燃料(ETBE)をガソリンに混ぜたもので、ガソリンに対するバイオエタノールの比率は3%。「性能も値段もレギュラーガソリンと変わらない」(新日本石油)ため、そのまま使用できる。

 石油連盟では、バイオガソリンを販売するスタンドを2008年度に100カ所に拡大し、10年度には全国で本格販売できる体制を整えたいとしている。
 導入を急ぐ理由は、日本政府が「京都議定書」によって二酸化炭素(CO穃)などの温室効果ガスを、12年にには1990年対比で6%削減することを公約したことによる。

 バイオエタノールは、二酸化炭素を吸収して育った植物を原料としているため、バイオエタノールが燃焼して発生した二酸化炭素は、削減対象に含めないとしている。このため、政府は、10年までに輸送用バイオ燃料を50万キロリットル導入することを決定している。しかし、ここにきて環境省と、石油業界との間で思惑の違いも浮き彫りになってきている。

 環境省は、ブラジルやアメリカのようにバイオエタノールを直接ガソリンに混ぜる方式であれば、将来的に10%から25%まで混合比率を上げることができるが、石油業界が主導するETBE方式だと3%が限界であるため、直接混合方式の方が望ましいとの立場だ。
 一方、石油業界は、直接混合方式にするには数千億円をかけて設備改良をしなければならず、また、自動車の部品も劣化しやすいことなどを理由に挙げ、直接混合方式に難色を示している。
 こうした点をどう乗り越えていくかなど、新燃料のバイオエタノールには課題も多い。

廃木材を原料とする生産工場も本格稼動

 もう一つの課題は、トウモロコシやサトウキビなどの穀物がバイオエタノールの原料として注目を集め、価格が値上がり傾向にあることだ。
 重要な食料としている国もあり、問題の過熱が心配されている。また、一方で、原料を栽培、運搬する時に二酸化炭素を排出する点も指摘されている。
 こうした中、注目されるのが、同じ植物でも、木造建築物を解体した後に、年間約600万トンは出る廃木材を原料としたバイオエタノールの製造だ。
 今年(2007年)の1月16日、大阪府堺市内に世界で初めて廃木材を原料とする工場がオープンした。

 同工場のエタノール予定年間生産量は1400キロリットル。そのために必要な廃木材は、4万~5万トン。

 同工場では、廃木材をまず1センチほどに破砕し、水と希硫酸を加え、糖液と残さに分ける。木材残さはペレットに成型され、これもバイオ燃料として使用される。糖液にさらに発酵菌を加え、濃縮、蒸留、脱水工程を経るとバイオエタノールが精製される。
 同工場では、今後、生産量を4000キロリットルにし、現在では割高の価格もガソリン並みにしたいとしている。

 出荷されたバイオエタノールは、ガソリンの添加剤などに使用される。
 政府は昨年(2006年)11月、将来的なバイオエタノールの生産目標をガソリン消費量の1割に当たる600万キロリットルとした。米国も2012年までに年間2800万キロリットルまでに拡大するとしている。

公明党の取り組み

 公明党はこれまで、地球資源の有効活用、温室効果ガスの減少へ、風力やソーラー、バイオマス(植物など生物体)などによる新エネルギーの開発、省エネ対策を重要な政策テーマとして積極的に推進してきた。

 バイオエタノールについても山形県新庄市や沖縄県宮古島でのサトウキビなどを原料とした実証実験などを視察。さらに、昨年(2006年)3月の参院経済産業委員会では、浜田昌良氏が揮発油税の減免などによるバイオエタノール普及を訴えていた。

 また、廃木材を原料とした大阪府堺市の工場へも稼働前の昨年(2006年)12月、党エコ・ジャパン、同環境部会のメンバーらが視察するなど、一貫して早期普及に向けた取り組みを続けている。

バイオエタノール

 サトウキビやトウモロコシ、木材などに含まれる糖を発酵させて造られるアルコールの一種。ガソリンと混合し、自動車用燃料として利用される。二酸化炭素(CO穃)を吸収する植物が原料なので、温暖化ガス削減を掲げた京都議定書では、これを燃料として使った場合もCO穃排出量はゼロとみなされている。

公明新聞:2007年5月8日

2007年5月7日月曜日

バイオガソリン試験販売 前途険し コスト高 普及へ壁

 石油業界は先月から植物を原料とするバイオエタノールを配合した「バイオガソリン」の販売を首都圏50カ所で始めた。2年間の試験販売で安全性などを確認し、段階的に販売量を拡大。2010年度から九州を含め全国で展開する。バイオガソリンは地球温暖化対策の切り札と期待される半面、原料の安定確保や価格見通しなど供給面での課題も少なくない。

 植物は生育過程で二酸化炭素(CO2)を吸収するため、バイオエタノールを燃やしても、大気中のCO2の総量は不変‐。

 この「カーボンニュートラル」という考えから、生物由来のバイオ燃料は、温暖化防止に向けた京都議定書でも「温室効果ガスを排出しないエネルギー」とされている。政府は10年度に原油換算で50万キロリットル分をバイオ燃料に代替する方針を掲げている。

 これに沿って石油業界は、業界割り当ての21万キロリットル分(エタノール換算では36万キロリットル)の代替を目指し、10年度にはガソリン販売量の2割をバイオガソリンに置き換える計画だ。



■製造法で対立

  ただ、関係省庁の足並みはそろっていない。今回、石油業界が取り入れたのはバイオエタノールと石油系ガスを合成した液体燃料「ETBE」をレギュラーガソリンに混入する方式。これに対し、米国などでは、ガソリンにバイオエタノールをそのまま混ぜる直接混合方式が取られている。

 エタノールは水と混じりやすく、取り扱い過程で雨水などが混入すると品質が劣化し、自動車の素材などを腐食させる恐れがある。それを防ぐため、石油業界はETBE方式を採用した。

 しかし、ETBEは余分なコストがかかり、混合割合にも限界があるため消費量を大幅に増やすのは難しいともいわれている。バイオ燃料の普及拡大を図る環境省は直接混合方式を主張し、ETBEを後押しする経済産業省と対立している。

 一方、バイオエタノールの原料作物増産を期待する農水省は、現状で年30キロリットルにすぎない国産バイオエタノールを「30年度までに600万キロリットル」に引き上げる大増産計画を掲げている。


■「国産」が理想

  バイオガソリンは試験販売中はレギュラーガソリンと同価格で供給されるが、バイオエタノールの輸入価格はガソリンより1リットル当たり30‐40円高い。普及拡大に向けコスト削減のほかバイオエタノールの安定調達という課題も横たわる。

 バイオエタノールの原料はトウモロコシやサトウキビなどが主で、日本の供給力は乏しい。海外でもバイオエタノールの輸出余力があるのはブラジルだけ。さらには、バイオエタノール需要を背景に近年、世界の穀物相場は上昇している。

 「無資源国のバイオエネルギーは『国産国消』が望ましい」。こう主張する石油連盟の渡文明会長は、理想型として草木や廃材などを原料とする生産を挙げる。それでも低コスト生産など実用化へのハードルは高い。

 こうした面からも、バイオエタノールは「夢のエネルギー」とは言い難い。過度に期待するより、市民にできる効果的な環境対策として、アイドリングストップや公共交通の利用など地道な省エネがなお求められる。

 (東京報道部・久永健志)=2007/05/05付 西日本新聞朝刊=

バイオ燃料 掛け声先行で戦略は不透明

 地球温暖化対策の一環として期待されている「バイオガソリン」の試験販売が首都圏で始まった。  サトウキビやトウモロコシなどの植物から造るバイオエタノールは、有力なガソリン代替燃料としてブラジルや欧米などで実用化している。日本でもようやく普及への一歩となった。  今回のバイオガソリン導入は石油元売り各社が進めた。

バイオエタノールから化学的に合成した燃料「ETBE」をフランスから輸入し、これを通常のガソリンに7%混ぜる。

給油所を順次拡大し、二〇一〇年度に全国へ広げる計画という。  

普及のかぎの一つは販売価格だが、当面、コスト高の分は石油連盟と経済産業省が負担することでクリアした。しかし補助期間は二年と限られ、それ以降は不透明といわねばならない。

 そもそもバイオ燃料の原料をどう確保するか。国産バイオエタノールの生産は年三十キロリットルに過ぎない現状で、輸入はやむを得ないとはいえ、そればかりに頼ってもいられない。安定供給が大きな課題であり、価格の見通しも不透明だ。

 環境負荷の少ない次世代燃料として期待が高まるのは当然だが、導入の掛け声が先行した格好で積み残された課題は多い。

 京都議定書で定められた二酸化炭素(CO2)排出量の削減目標達成に向け、バイオ燃料は有望な柱の一つとなる。政府は一〇年度に自動車燃料などに年五十万キロリットル分を導入する計画だ。  

ところが、気がかりなのは主導権をめぐって省庁間の足並みがばらばらなことだ。  石油業界が採用した「ETBE方式」は経産省も後押ししている。

この方式は欧州で一般的だが、エタノールの比率を上げるには限界がある。これに対し、環境省はもう一つの方式の、エタノールを直接混ぜる「E3方式」を推進している。これは米国などで主流だ。  

環境省はこの「E3」燃料を八月から大阪府などで販売する実証事業を手がける。しかし石油業界が協力を拒否しており、ガソリンの調達先は決まっていない。さらに、農業振興に役立てたい農林水産省は「三〇年までに六百万キロリットルの国産バイオエタノール生産」という構想に意欲を見せている。

 こんな足の引っ張り合いや思惑の相違がある限りスムーズな導入はおぼつかない。省庁の壁を超えた取り組みを求めたい。  まず今回の試験販売を検証・公開し本格導入に生かす必要がある。サトウキビなどだけでなく樹木や稲わらなどを活用する技術開発や、税制優遇策の検討も課題としたい。  

世界的にも市場は拡大しそうだ。米ブッシュ政権や欧州連合はガソリン消費量削減に向けバイオ燃料拡大を打ち出し、温暖化対策に取り組む姿勢を明確にしている。

 一方で、燃料への関心の高まりが穀物国際市場に悪影響を及ぼしている。エタノールのCO2削減効果の検証も重要だろう。国際的な視野から長期的な戦略を立てて臨む必要がある。

2007年05月01日(火)付 愛媛新聞

健康への害はガソリンと大差ないエタノール燃料

エタノールは環境に優しい、クリーンな自動車燃料として推奨され、日本でも輸入製品が出回り始めたが、手放しで歓迎とはいかないようだ。同製品の広範囲での使用が、将来的に呼吸器疾患による死亡や入院の増加を招くことが、科学誌「Environmental Science & Technology」4月18日オンライン版に掲載された米国の研究で指摘されている。
米スタンフォード大学(カリフォルニア州)大気科学者のマーク・Z.ヤコブソン氏らは、大気状況をミュレーションするコンピュータモデルを用いて、エタノール85%とガソリン15%を混合したE85燃料の車が広範囲で使用された場合の、2020年時点での米国の大気状況を検討。
 研究では、E85の使用により、大気中の発癌(がん)物質であるベンゼンとブタジエンは減少する一方で、ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドは増加。その結果、E85による発癌率はガソリンと同じであることが示された。 また、スモッグの主成分であるオゾンは、南西部では減少するものの、ロサンゼルスと米北東部で著明に増加することが確認された。それに伴い、オゾン関連の死亡件数は、ガソリンに比べ年間約200件の割合で増え、うち約120件がロサンゼルスで発生すると推計された。
 これらの大気状況に起因する疾患による死亡率は、2020年には、ガソリン車に比べ全米で約4%、ロサンゼルスでは9%、それぞれ増加すると予測している。また、E85は、ぜんそく関連の救急室搬送および入院数を大幅に増加させることも示された。

 エタノールの有害性はトウモロコシ、スイッチグラスなど原料を問わない。ヤコブソン氏は、エタノールはガソリン燃料による汚染と同じくらい有害であるにもかかわらず、なぜバイオ燃料を推奨するのか疑問を投げかけている。米国でのガソリン汚染による早期死亡は毎年約1万件に達している。
 ヤコブソン氏は、「風力や太陽光の転換エネルギーで走る電気自動車、プラグインハイブリッド車、液体水素燃料電池車などは、毒性物質やグリーンハウスガスの排出は実質的にゼロで、土地への悪影響もほとんどない。エタノールの原料のトウモロコシやスイッチグラスを大量に生産するには広大な土地を耕す必要がある」とも指摘している。
(HealthDay News 4月18日)